Child on the Steps - 1/9

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 ガラス製の透き通った螺旋階段は、病院のエントランスホールに設えられたオブジェであって、実用品ではなかった。
吹き抜けのドームの向こうの青空に続くように、次第に幅を狭めながら螺旋を描いて続く階段のその先端に、人型の鳥が留まっていた。
燦々と降り注ぐ陽光をオブジェのガラスが乱反射させ、緋色の翼をより鮮やかに見せる。
「ホークス」
呼ぶと、猛禽類に似た琥珀色の瞳が不思議そうに見下ろしてくる。
「降りてこい」
翼のない者には手の届かない高さに留まって、首を傾げる仕草は人よりも鳥に近い。
「そこから降りろ」
苛立ちと焦りが綯い交ぜになって、炎の形を取って伸ばした腕の上を走った。
「エンデヴァーさん!」
周囲の悲鳴じみた制止に慌てて個性を制するが、頭上の鳥は驚いた顔をしてこちらを覗きこんだ拍子に、あっさりとバランスを崩し、ぐらりとその身体が傾ぐ。
「飛んで来い!」
上がる悲鳴を圧して声を張り上げれば、はたはたと小さな両翼をはためかせ、飛ぶというよりは少々遅くなった落下の体ではあったが、僅かに進路を自身の意志で定めてエンデヴァーの両手の中に納まった。
軽く、柔らかく、余りにも小さな身体を抱え込んだエンデヴァーは深々と嘆息し、居合わせた人々もよかった、と安堵の息を吐いた。
「……何も、良くない」
苦々しく唸ると、大の大人達はびくりと身をすくめたが、抱え込んだ人以前の生き物は気にせず顔に沿ってゆらめく炎に向かって無造作に手を伸ばした。
「危ないだろうが!」
慌てて腕を伸ばして距離を取れば、短くなった手では届かなくなった炎に、む、とむくれたホークスが翼をばたつかせた。抗議をしているのかもしれないが、普段口から先に生まれたような青年の見る影もない。
「どう……しましょう?」
白衣を纏った男の呆然とした呟きに、油断するとふわふわと飛んで行こうとする生き物を炎を消した腕の中に囲い込みながら、どうもこうもない、と唸る。
「すぐに解消法を探して対策を練れ」
外見も中身も二十年以上逆行したNo.2を抱えて、No.1ヒーローは再度嘆息した。