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朝、目を覚ましてまず窓の外の今にも降り出しそうな曇天を見やり、その後床に目を転じると、鳥が土下座をしていた。
「だから、後悔するぞと言ったんだが」
「いや、もう、本当に……大変なご迷惑をおかけしました」
平伏されると、背の派手な色の翼が良く目立ったが、ふわふわした後ろ髪の隙間から除く首と耳も似た色に染まっているのが見て取れる。
「で、今いくつだ?」
「二十三です。っていうか、元に戻ってます」
個性を受けて幼児化する前の時点に戻った、という主張を無言で聞く。
「……信用がない」
「昨日、高校生が色々とやらかしたからな」
一ヶ月程の差でプロ資格の有無が変わるため、十八歳の子供は色々と画策して騒ぎを起こしてくれた。
「あっの、クソガキ……!」
エンデヴァーも昨日散々唸った言葉を、当人が呻く。昨日の時点で、十八歳の彼も四年前と四年後の己に呪詛を吐いていたので、そういうものなのだろう。
これまでずっと四歳ずつの加齢だったのだから、そのセオリー通りならば二十二歳。外見上は十八の時とほぼ大差なく判断しにくいが、ここで彼が一年分の年齢詐称をする必要性が見当たらない。
必要性があれば平然と嘘を吐く性格なのは、よく知っているが。
「ホークス、顔を上げろ」
手っ取り早く確認する方法があるので、そう呼びかけるとようやく顔を床から上げたホークスがエンデヴァーを見上げて情けない顔をした。
「とりあえず、去年の十二月以降の貴様だな。細かいことは後で質問で判定する」
「……今、何を見て判断を?」
「顔」
不可解そうに己の顔にぺたぺたと手を当てているが、別に彼の顔に傷や判別に使える特徴などがあるわけではない。
傷があるのはエンデヴァーの左半面で、傷痕をまともに見るたびに歪むように揺らぐ表情が、ここ数日はすっぽりと抜け落ちていたのが戻っていたことで察しただけである。
幼い彼らは、傷のあるエンデヴァーを己の知らない未来の戦いを経た存在と捉えて、それなりの気遣いは見せたが、この傷がついた戦闘を知っているホークスは態度が違う。
「とりあえず、これを片付けろ」
ベッドの周辺に散乱したディスカウントショップの袋と、安っぽいセーラー服だのローションだのを指し示すと、意味をなさない呻き声を上げてその場にしゃがみこんで髪の毛を掻き毟る。
「重ね重ね、ご迷惑をおかけしました……。ミジュクでマコトにモウシワケゴザイマセン」
普段の訛りとも違う片言の発音に、落ち着け、と頭に拳骨を落とす。
「若さってコワイデスネ……」
一般人ならば、まだ社会人になりたての年齢の若者が慨嘆するようなことではないが、プロヒーロー歴五年の実力派の若手にとって、十代の自分の所業はそれ以外のなにものでもないのだろう。
辛い、と安っぽいアダルトグッズを前にさめざめと顔を覆っている男に同情してやろうにも、思考回路が根本的に異なる鳥類が本当は何を考えているか分かったものではないので、思考を切り替える。
「ホークス」
呼びかけると、心底情けなさそうな顔で見上げてきた男に、冷厳に問う。
「貴様が今するべきことは?」
「……仕事ですね」
丸五日分、ヒーローとしての業務が滞っている上に、その間にしでかしたことの始末もある。
表情を切り替えたホークスが、少し考え込んで子供部屋のある方角に目を向ける。
「着替えなどは貴様が出張用に用意していた荷物がそっちに置いてある。パソコンは俺が預かっている。携帯は昨日の夜、貴様がどこかに隠した。コスチュームはうちの事務所に保管。回収と一緒にうちの事務所で業務処理していけ、うちの事務方もその方が助かる」
色々としでかしてくれたので、片づけないといけない後処理に当人の承認や証言が必要となってくる。
「ありがとうございます、俺もその方が色々やりやすいです」
仕事に頭を切り替えたらしいホークスは、散乱していた物を無造作にビニール袋に放り込んで、袋を縛ると始末に困ったのだろう。ひとまず出張用の小さなスーツケースにごみでも扱うかのように突っ込んで蓋を閉じる。
取り散らかっていた思考や感情も同様に処理したのであろうヒーローの横顔に、なるほど、と納得する。
あの厄介で面倒くさい手のつけられない子供は、こういう大人になるのだ。
さすが最速、と慨嘆したのはスタッフの誰だったのか、元々処理能力の高さは買っているが、今日は最初からフルスロットルで飛ばしたのだろう。ものすごい勢いで己の事務所や関係各所に連絡を取って、山積みの業務を片付けていく若者の表情が鬼気迫るから死相に変わった時点で、パソコンの前から引き剥がして遅い昼食を取らせた。
食事ついでに打ち合わせと称して、今回の件の対応を話し合う。
「正直、小さい頃のことはかなり記憶が曖昧です。今回の小さくなってた時の事なのか、本当にその年齢の時のことだったのかが、判断つかなくて。六歳の頃、エンデヴァーがぬいぐるみ買ってくれたのと、めっちゃ困った顔してたのは覚えてます」
忘れていいことは覚えている鳥頭である。
「十歳の時、目良さんと昼食べに行って」
それはあった、とうなずくが、続いた台詞は異なった。
「食べてる途中で目良さんが寝落ちて、仕方ないから剛翼を服の中に何枚か突っ込んで、歩いてる振りさせて連れ帰る途中で、動作が不自然すぎて職質受けた」
「それは知らん」
「あ、これ、リアル十歳の時か」
記憶が混沌としているのは分かったので、黙って書類を手渡す。
「なんですか、これ?」
「今回の件で作成した、貴様の毎日の状態の報告書だ」
「……観察日記」
「報告日報だ」
初日は今後どうなるかも未知数だったので、細かな身体値や病院の検査結果から行動に至るまで事細かく書き留めてあるが、コンスタントに年齢が加算されるのが分かってからは、自己申告年齢と事務所で測らせた身長体重以外は、出来事のみ記録している。
「何があったかはこれで把握しろ。本来ならそのまま提出するが、早く出せとせっついてくる公安が気に食わんので、校正して構わん」
「お気遣いありがとうございます。とりあえず、反社会的な反応した系はソフトな表現にしといてもらえると、公安がピリピリしなくて済みます。この、十四の時のステイン関連の言動削っといてもらえます? 公安に対する不信っぽい言動も」
ぺらぺらとプリントされた書類を捲っていた手が一瞬鈍る。
「夜のことなら、『思春期のためか、言動がやや不安定』で済ませとる」
「……エンデヴァーがそんな気遣いするほどの醜態……」
「そうだな」
フォローしてやる必要性を感じなかったので、あっさり相槌を打つ。
「一応聞くが、昨日のあの暴走はなんだったんだ?」
「俺にもよく分かりません」
本人の証言が全く頼りにならず、じろりと睨むと、両手を上げて降参を示す。
「本当に夢みたいなんですよ。俺の意志とは関係なく俺が勝手に動く感じの。俺の携帯を覗いて、なんか勝手に推測したんだと思います」
スマートフォンを取り出して、なんとも渋い顔で見下ろす。
「俺、いくつか囮捜査や潜入捜査をしてまして。ちゃんと上の許可は得てますよ? その中で、密輸の打ち合わせだの、ドラッグの取引だのの連絡をした形跡を残してます。残してる時点で、証拠用だと思えって話なんですけど。この辺見て、俺は汚れた犯罪者で、ヒーロー失格だ、って潔癖っぽく思い詰めてあの暴走じゃないですか?」
「なるほど」
納得しやすい説明ではある。
「ホークス、貴様は頭のいい子供だったんだろうが」
「よく言われました」
「一を聞いて十を暴走する悪癖は直せ」
「めちゃくちゃよく言われました」
たぶん直したと思います、と冷や汗をかきながら、大人になった子供が平身低頭した。
食べかけのサンドイッチを手にしたまま、しばらく毒殺死体のような有様になっていたが、放置していると自動的に一人で立ち直って、また報告書を捲り出す。
ここ数日、彼の成長過程を見てきて理解したが、基本的にこれは太々しい。
ペンを片手に、線を引いたり何やら書き込み出した顔が笑っている。
「何がおかしい?」
「あれ、笑ってました?」
しまった、と口元を襟で隠すが、目がなおも笑っている。
「いや、なんか……、全方位に迷惑かけてて、正直災難だったなーって個性事故なんですけど、なんだかんだと夢が叶ってて」
「……夢?」
「子供の時にぬいぐるみ買ってもらったでしょ。あと、ピンチの時にヒーローが助けに来てくれるって、超夢でした」
かっこよかったです、と笑う顔は穏やかだ。
「それから、エンデヴァー事務所のサイドキック、なってみたかったんですよねー。まあ叱られて終わりましたけど」
へらりと笑って、報告書の一文を指でなぞる。
「一生の思い出にしますね」
大仰な言い回しと軽薄な声、真意の掴みにくいふわついた顔を見やって、一つ嘆息する。
手のつけられない子供だった。
大人の事情で複雑に歪んだ生育環境と、持って生まれた強個性とよく回る頭でもって、どの年齢でも扱いが難しかった。
たった一日しか存在しない幻のようなものに、必要以上の手出しをしたところで何にもならないと、児童虐待を警戒した娘を諫めたのはエンデヴァー自身で、その場限りの対処しかしていないというのに、大人になった子供は夢が叶ったなどと、救われたように笑う。
手をつけてはいけない子供だった。
「……もういいか?」
「何か?」
うっかり声に出した一言に、首を傾げたホークスの頭に手を置いて、こちらの話だと髪をかき混ぜると、むっとした顔をする。
「エンデヴァーさん、俺のこと子供扱いするの、癖になってません?」
「なっとらん、前からだ」
きっぱりと断じると、そうだっただろうか、と複雑な顔でエンデヴァーの子供のような年齢の男は考え込んだ。
夜中まで書類を片付けていたホークスに、終了、と告げて首根っこを掴んで雨の降り出した外につまみ出した。ホテルに泊まるなどと騒いでいたが、着替えなどが全て置いたままなのを盾に、問答無用でマンションに連行する。
「飲むか?」
山ほどある貰い物の酒瓶の中から、好みだったはずの焼酎の瓶を掲げてみせると、色々と限界だったのだろう、素直にうなずいたので、急遽つまみもない酒盛りを開始する。
酒はそこまで弱くないはずだが、今日はペースが速かった。
「エンデヴァーさんが気遣いするとか……、無理……」
「貴様は一度、礼儀作法というものを習ってこい」
顔を手で覆ってさめざめと泣き真似をする酔っ払いに、しみじみと慨嘆する。
「公安はどういう教育をしたんだ」
「エンデヴァーさん、そればっかですね」
「不遜な若造の態度について、責任を問える相手が見つかったからな」
大いに責任を追及していく所存である。
「おい、傾いているぞ」
指摘すると、グラスをまっすぐに直そうとするが、あいにくと傾いているのは彼自身である。
手を伸ばして頭を支えて元に戻してやって、これは今日はそのまま寝かすか、と嘆息する。酔っ払いはエンデヴァーの手に興味を引かれたようで、指を一本ずつ摘まんでは引く姿は、最初に乳幼児になったときによく似ていた。
「楽しいか?」
「手、デカいですよね。俺の何倍です?」
「そこまで大きくない」
そうかなあ、とぼやきながら、手を合わせてくる。
長さで言えば、第一関節分程の差異だったが、太さと厚みは倍といって差し支えない違いだった。筋張った男の手で、一般人に混じれば平均的なものだろうが、肉体派のヒーローの筋骨隆々の体型に見合った拳を見慣れた目には、ひどく薄く華奢に見えた。
「あんまりヒーローっぽくない、って言われんですよ。俺だってこういうゴツい手になりたかったです」
「気色悪いわ」
ウイングヒーローとして絞った体型をした彼の手だけがこんなものになったら、非常に気味が悪い。
「俺、エンデヴァーさんの手、好きです」
「ボロボロだぞ?」
「だからです」
敵との肉弾戦と慢性的な火傷で歪み、爛れた指先はお世辞にも美しいものではなかったが、恭しく口付けてきた鳥に、空いた手で髪をかき混ぜてやればくすぐったそうに笑う。
一本ずつ指に口付けていくのに、親指を口内に戯れに差し入れれば、ちろりと赤い舌を這わす。
「……誘っとるのか?」
「子供に手は出さないんでしょ? どうせ、いくつになったって子供扱いのくせに」
拗ねた顔で、かぷりと指にかじり付く生き物を見下ろして、いや、と首を振る。
「昨日も言ったとおり、今のお前が誘うなら構わんが」
ぴたり、と蠢いていた舌が止まった。
「手を出して、いいんだな?」
覚悟はできているのか、と問うと、ぱっと手を離した男は無意味に数度口を開閉させた。
「……やっぱ、冗談です。ごめんなさい、って言ったら、なかったことになります?」
「おやすみなさい、と言って、ベッドに行けば、酔っぱらいには手を出さん」
困り顔にそう言ってやれば、深くうつむく。酔い以外の要素で赤く染まっていく首を黙って見やり、結論を待つ。
「お、やすみなさい」
「ああ、ゆっくり休め」
頭の上に置いたままだった手で、髪をくしゃりとかき混ぜてから解放してやれば、ふらついた足で立ち上がって、子供部屋に向かう。
覚束ない足取りを大丈夫かと見守っていると、戸口をくぐり抜ける際に目測を誤った。
がつん、と大きな音を立てて広がっていた両翼を打ち付けたらしいホークスが、ばったりと仰向けに倒れ込む。
「……大丈夫か?」
「滅茶苦茶恥ずかしいです」
なかなか起きあがれずにいる男の側に寄って、引き起こしてやろうと手を出すと、赤い顔で見上げてくる。
「…………やっぱ、抱いてください、ってありですか?」
「手を出していいんだな?」
答えの代わりに、差し出した手に縋るように抱きつかれて口づけられた。
「これは……」
「辛い……」
朝に彼がスーツケースの中に押し込んだディスカウントショップの袋を引っ張り出して、中身を確認してみたところ、酔いが幾分醒めたようで、顔を両手で覆う。
「ガキが、ネットでセックスのやりかた調べて、後は想像力働かせてみました、って感じですね」
きっとその通りの状況だったのだろうと思われる、商品のセレクトである。
「なんでゴムは買ってないんだ?」
「妊娠しないならいらないと思ったか、そんなの必要ない、ってアレな思考か……。あー、そんなのいらないの方だ……」
曖昧ながらも五年前の己の思考は追ったようで、頭を抱えてしゃがみ込む。
「どうする?」
「エンデヴァーさんが抵抗なければ、生でいいですよ」
そう言って、嫌そうな顔でアダルトグッズを突いている男に、何か使いたいものがあるのかと問うと、ビニールの音を立てながら妙に安っぽい紺色の服を持ち上げてみせる。
「エンデヴァーさん、セーラー服好きです?」
「いらん」
「ロータープレイとか好きですか?」
「公安にどういう性教育を施したか、確認していいか?」
「施されてないから、割と箱入りなんですよ、あの頃の俺」
「だろうな……」
まるでなっていない痴態で誘惑してきた姿で分かってはいた。
「素人が頑張ってる感で、ムラっとしたりしました?」
「口を押し付けてくるだけのキスで精一杯な顔をして、抱けという割に本当にされたらどうしようとビクビクしている生き物相手に、手を出そうなんぞ思えるか」
「それはスミマセンでした」
片端だけ唇を吊り上げて、伸び上がるように首に縋って唇を重ねてくる。
ちろり、と薄い舌が傷痕を舐めて、笑う呼気が濡れた跡をくすぐった。
「もう、対子供モード解禁していいですよ」
煽るな、と一つ舌打ちして、軽く開かれた口に食いつくように口づける。
「っ……ふぁ……」
甘く息を上げて、ずるずるとへたりこんで低くなっていく身体を追って身を屈め、妙な反撃を仕掛けてこなくなったのを確認してから、おもむろに抱き上げると、想定外の軽さに力加減を間違えてたたらを踏む。
「浮かんでいい」
「……重いですよ」
妙なところで遠慮がちなところは子供の頃から変わっていない。
「エンデヴァーさん、抱っこ癖ついとる」
「どこぞの鷹が毎日泣いてしがみついてきたせいでな」
「じゃあ、今夜もたくさんなかせて?」
囁き落として、耳を啄んでくる鳥類は、実にタチが悪い。
寝室まで運んで、ベッドの上に落とすと改めて問う。
「先に確認しておくが、どのくらい慣れているんだ?」
「……えーと」
「俺の喜びそうな答えを探るんじゃない」
先手を打つと、窮した顔で言い淀む。
「…………あんまし、ないです。っていうか、十八歳がなんか色々暴走したせいで誤解がありそうなんで言っておきますけど、枕営業とかハニートラップなんかしたことないですからね? 今のところ、そういうことが必要になったことはまだないです」
「……今のところ、まだ?」
必要になればする、と言外に明言した若者をじろりと見下ろすと、しまった、と視線をさまよわせるのを、顎を捉えてまっすぐ見据える。
「ホークス、正直に。経験は?」
「な…い、です?」
「言い切れない理由は?」
「ええと、本番はないですけど、セクハラみたいなのはなくもないっていうか、あ、保護者の男の人に、オナニー強いられたり、その後泣いてたら膝の上に乗せられて、更にエロいこといっぱいされました、一昨日」
「後半はしとらん!」
十八歳の彼も、その被害を最初現実だと思い込んでいたが、完全に事実無根である。
「夢にしてはめっちゃリアルだったんですけど、本当にしてません? どこが気持ちいいのか、言え、って全部言わされて、俺、すごい恥ずかしかったのに……」
「……分かった、正夢にしてやる」
腕を掴んで引き起こしたホークスの顔から、笑みが払拭される。
「エンデヴァー、さん?」
「膝の上に乗せて、何をしたと?」
身を入れ替えるようにしてベッドに腰掛け、膝の上に跨がらせて問うと、身の危険を感じたようで浮きかけた身体をしっかりと押さえ込む。
「エンデヴァーさん、それヒーローの顔じゃないです」
やかましい、と一つ唸って、エンデヴァーはいつまで経っても黙らない口を塞いだ。
「や……ごめんなさ、も、やぁ……」
くちゅくちゅと、淫猥な水音に首を振る度に、髪と、僅かに揺れる翼が微かな羽音を立てる。
蹂躙を止めようと伸ばされた手を掴んで、その手ごと陰茎を扱いてやれば、あっさりとホークスは惑乱した。身を跳ねさせて、早々に放たれた精の滑りを借りて、先端を弄り続けると泣きが入ったが、彼が言う十四歳の少年を翻弄した男はもっとひどいことを延々と強いたらしいので、何をしたのかを逐一聞き取りながら、尖り始めた乳首を摘まみ、時折膝を揺らして陰嚢の裏と会陰を刺激してやれば、身を反らして切れ切れに喘ぐ。
反らされた背が顔の前にきて、ゆらゆらと揺れる両翼の間に唇を寄せて強く吸うと、ホークスは一層狂乱した。
「ひゃっ、だめ、背中、だめっ」
「昨日、貴様が性感帯だとわざわざ教えてくれたんだが?」
「だ、め……そこ、普通じゃ、な……から弱い、くすぐった……、だめ、こわい……!」
意味をほとんどなしていない悲鳴を要約すると、翼の付け根には剛翼を制御するための彼だけの特別な器官が存在していて、そこには神経が多く集まっているらしい。
「なるほど」
肩胛骨の下から盛り上がる彼を彼たらしめる羽毛に包まれた器官をゆっくりと指で撫で上げてやると、濡れた悲鳴が上がる。
「過敏だな?」
「だ、だめ、ほんとに、ダメ、だからぁっ!」
「ホークス」
耳元で呼びかけると、びくりと身を震わせて、涙目で振り返ってくるのを、後頭部を掴んで元に戻す。
「見ていろ」
とろとろと白濁の混じった先走りを溢し続けるホークス自身を示し、いやだ、と首を振るのに、頭を固定して見ろ、とまた囁き落とす。
「やっ、だから、そこ、は……」
つ、と背を撫であげると、呼応するように、とぷりと先走りが溢れて陰茎を伝う。その濡れた感触にすら感じているのか、ふるりと腿が震えた。
「あ……や……」
両翼の、それぞれ肩胛骨の下に潜る部分を、とん、と叩いてやれば、大仰に身を跳ねさせ、揺れた陰茎からまた雫が散る。
「エンデ、ヴァ……さ……」
「見てろ」
「や、や……っ」
首を振ることすらできず、呪縛されたように己の性器を呆然と見つめるホークスの目に涙が浮かぶ。
「あ、いっ……あーっ!」
背に当たる呼気で、続く衝撃は予期していたのだろうが、がぶり、と噛みついた瞬間、大きく悲鳴をあげて仰け反ると同時に達し、一瞬の硬直の後に、ぐったりと弛緩した。
「いい子だ」
「やだって、言った、のに……」
ひどい、とぐずぐず泣きながら抗議してくるのを、抱き込んで頭を撫でる。
「それで、正夢になったか?」
「十四のガキが、こんなねちっこいエロ夢見るわけないでしょーが!」
涙目で噛みついたホークスが、身を返してきて、目を据わらせた。
「今度は俺の番ですからね!」
妙なところで負けず嫌いを発揮してきた若者が、エンデヴァーの勃ち上がりかけたそれを強引に掴んできて、思わず顔をしかめると、力を入れすぎたと気づいたようで、そっと撫で擦ってくる。
「むくむくして、なんかかわい……って思ったけど、あれ、これまだデカくなります?」
「……おまえな」
この体勢で説教もどうかと悩んだ隙に、有無を言わさずにホークスはそれを口内に含んだ。
「おい、無理をするな……ッ」
「無理じゃないれふ」
「そのまま喋るな!」
「……口、入りきんないんですけど、え、これ、入ります?」
「無理はせんでいい」
体格に見合ったサイズの自覚はある。避妊具もないので、初めてだという子供相手に、最後までするつもりはなかった。
と、子供扱いを感じ取ったのだろう、負けん気を起こしたらしい若者が、むっとした顔になる。
「しますから」
「意地を張る……なッ」
目を据わらせて宣言してきたホークスが、また大きく口を開いて陰茎を含んだ。
「きもひいれす?」
「…………」
正直なところ、慣れない拙い愛撫はそこまで快感を与えてこない。ただ、普段生意気極まりない若造が、目元を紅く染めて必死で奉仕してくる姿に、腰に熱が溜まる。
顕著な反応に気を良くしたか、動きが大胆になってきて、快楽も伴い始めたから始末に負えない。
「おい……」
「出して、いいですよ?」
先端を吸い付かれて、眉をひそめると、喉の奥で笑う気配があった。
少し余裕が出てきたのか、十八歳の彼が買い求めてきた中で、唯一使えそうだったローションを手にとって、中の液体を掌にあけたホークスが、一瞬奇妙な顔をした。
「どうした?」
「なんか、あったかいです」
「こら」
ローションに塗れた手で性器を掴まれて、また顔をしかめるが、ぬるりとした感触の後、じわりと熱がこもった。
「温感ローション、口に入れても大丈夫だそうです」
たっぷりと塗りつけられて閉口するが、滑る手が上下する度に、びくりと腰が揺れる。
「んっ……」
また拙い舌使いを再開させながら、ローションで濡らした手を後ろに回すホークスの仕草を、息を乱して見守る。
たどたどしい手つきで、後ろを慣らしているようだが、背の翼が邪魔でよく分からない。広がり具合からして、わざと隠しているのだと知って、丸まった背に手を伸ばす。
「んうっ!」
また翼の付け根のところを指で叩いてやると、翼がぶわり、と一瞬膨らんで受けた衝撃を表した。同時に、じろりと涙目で睨み上げてくる。
「おい……!」
いたずらなどさせないよう、奉仕に集中することに決めたようで、強く吸い上げられてさすがに焦る。
「もういい、離せ!」
額を掴んで引きはがそうとするが、最後、とばかりにくびれを舌でなぞりながら吸われて、堪らず放つ。
「おい、吐き出せ。無理するな」
目を白黒させているホークスに、口から出せと言い聞かせるが、妙に頑なな顔で首を横に振る。
「泣くならやめんか!」
ティッシュを数枚取って押しつけると、やはり無理だったのか咳き込みながら吐き出す。
「……飲めんかった」
「そんなもん飲まんでいい」
セックスとはこういうものだっただろうか、と頭の痛いものを覚えるが、これに出会ってからというもの、散々に振り回され続けているので、ベッドの上だろうがこうなるのは仕方ないのかもしれない。
「こっちに来い」
今度は何をされるか、と警戒した顔をしている鷹の腕を掴んで引いて、足の間に座らせた。
背を支えて腰を上げさせると、ばさりと剛翼が開閉する。背を責められるのを警戒しているのを無視して、中途半端に慣らされかけて放置された窄みに触れる。
表面にだけ塗られたローションを指ですくい上げて、内部に塗り込めるようにしていくと、己の指より太いそれに、眉をひそめる。
「痛いか?」
「いた、くはない、ですけど。熱い、です」
ローションの効果だろう。異物感はその熱にごまかされているようで、ローションを足してもう少し深く差し入れるとようやく違和感を覚えたらしく、肩越しに背後を振り返って、男の指が己の体内に入り込んでいるという状況を目の当たりにして、ぶわりと顔に血を上らせる。
「あ、あの、自分で……!」
「今度な」
内部に滑りを足しながら、少しずつ広げていきつつ応じると、不可解そうな顔をする。
「今度……?」
「嫌ならしない」
なるほど、一度きりだけのつもりだったか、と納得しながら油断した背を撫で下ろすと、不意を突かれて弓なりに身体を反らせ、内部に入り込んだ指を食い締めて悲鳴を上げる。
「背中、嫌やって……! ひゃっ!?」
「今背中は触っとらん」
ここか、と反応した場所を擦り上げると、またひっくり返った声が上がる。
「な、にをし……、やっ、なにっ?」
びくびくと震えて膝立ちがままならなくなった男の腰を抱いて引き寄せると、甘く泣きながら首に縋ってくる。
「そこ、なんか、変、だから、ダメ、です……!」
「駄目なところばかりだな」
つまり、いい、ということに変換して、指を足すと惑乱して助けを求めるように必死に縋ってくる。
「あ、熱い、熱いです……っ」
真っ赤な顔と、ほたほたと伝い落ちる汗に、はた、と気づいて指を引き抜く。
「怪我は!?」
びくりと跳ねた肩を掴んで問うと、涙に濡れた目が茫洋と見返してくる。
つい我を忘れて、腹の中を灼いてはいないかと焦ったことを、少し時間をかけて理解して、ふるふると首を横に振る。
「だい、じょうぶ、あつい、ですけど、これ、好き……。エンデヴァーさんの手、きもちいい……」
大丈夫だ、と繰り返されて、行為を再開する。
自然と慎重になった愛撫に、焦れて泣きだしたホークスが、もう挿れてくれと懇願してきて、ようやく後腔に屹立をあてがった。細い腰を掴んで支え、ゆっくりと下ろしていくが、途中でその身体が強張った。
「う……っく」
「息を吐け」
無理をするな、と散々に慣らしてもまだ狭い内部に顔をしかめながら告げるが、やめないでくれ、と泣きじゃくる。
「おい、ホークス……!」
身を捻られて、汗で手が滑った。
ずるり、と落下した身体が、中途で止まっていた肉杭を自重で無理矢理飲み込んで、かはりと息を吐く。
「大丈夫か……?」
硬直しきった身体に焦るが、やがてゆるりと頭を振ったホークスが顔を上げた。
「熱い……」
入っている、と情けない笑う顔にキスを落とせば、お返しとばかりに顔を啄まれる。
傷のある左半面ばかりに集中する唇を、途中で捕まえて深く口づける。
「動くぞ?」
緊張が解けて馴染んできた内部をかき回すと、あえかな声が上がる。
「これ、絶対、夢や……」
与えられる過剰な感覚に耐えきれなくなってきたのか、揺さぶられながら、茫洋と呟かれた声に顔を上げる。
現実だと思えない、と言う子供を否定せず、背を撫でながら口づける。
「夢ついでに、何か俺に言いたいことはあるか?」
「言いたい、こと……?」
濡れる頬を温めた手で覆いながら、より熱に浮かせる。
「エンデヴァー、俺を……」
ぼろぼろと溢れる涙を掌で受け止めて、言葉が溢されるのを待つ。
「信じんで……」
何でも聞いてやるつもりだったが、これはひどい。
「貴様は本当に……」
手の付けようのない子供だ、と苦々しい感情を噛みしめて、己に比べて二回りも小さな身体をかき抱いた。
