マネジ! - 11/12

 土曜日の午前中、一年生レースの出発地点に並んだ一年生達は、初めての試合形式とあって緊張と期待に浮き足立っている。経験者と全くの初心者では余裕が大分違う。
 更に一年生達を浮かれさせているのは、レースへの参加を表明したマネージャーの存在である。
「マネジがチャリ乗ってるの初めて見るっす」
「そのリドレー、マネジのだったんすね、結構本格的に乗ってんですか?」
 下にレーシングパンツを穿いて制服はそのままの、いつもの姿である。これがいつもの、と見慣れた時点でどうかと思うが。
 レースの話を聞きつけたギャラリーもそこそこ集まってきていて、その女子率の高さにテンションを上げている一年もいるが、彼女らの目的は東堂が一年生達を徹底的に叩きのめすことにある。
「東堂先輩、がんばってー!」
「東堂おねーさま、今日も美しいでーす!」
「みんな応援してねー!」
「はーい!」
「かっわいー!」 
 実に倒錯甚だしい。
 律儀に応援の一人一人に手を振っていた東堂のにこやかな表情が、荒北を視界にいれた瞬間払拭された。
「ンだよ、その顔?」
「朝から視界に入れたい顔面をしているつもりか、お前は? せっかく可愛い女子の集団を見て心癒されていたのに台無しだ」
 どこまでも口の減らない男のヘルメットの上から拳骨を落とし、そのままメットを押して顔を上げさせる。
 ここしばらくに比べれば、顔色は大分良い。夜も朝も食事を摂らせたし、睡眠もどうにか摂ったようだ。レースに参加させて問題ないかを悩んでいると、見透かしたような瞳が、余計な口出しをするな、と睨み据えてくる。
「顔怖いぜ、自称美人マネジ?」
「自称ではないな」
 その外見に対する絶大な自信はどこから湧いてくるのか知らないが、女子の声援に向けていたのと同じ微笑みを、一瞬だけ荒北に向けたかと思うとすぐに削ぎ落とす。途端にまるで女になど見えなくなった顔を両手で挟み込んで、冴え冴えとした双眸を荒北は覗き込んだ。
「この二週間、ろくにチャリ乗ってねェけど、マネジ大丈夫? 自信無いなら引いてやろーかァ?」
「お前が、オレを、山で?」
 傲慢な声をきいて、ニヤリと笑う。
「一年全員ぶっちぎるんだっけ? 経験者の中には相当回す奴いるぜ? 勝てンの?」
「当然だ」
 鋼色の声に笑って、荒北は手を離してやる。
 東堂尽八という男はとかく大言壮語を吐いては、突拍子もないことをしでかすが、一番手に負えないところはと言えば、やると言ったことは絶対にやり遂げるところだ。

「荒北!」
「あれ、福ちゃん、どこ行ってたのォ? もう一年スタートしちゃったよ?」
 右肘を掴んだ指に籠った力に僅かに顔を歪めつつ、唇の片端だけを引き上げるようにして笑ってみせると、福富の鉄面皮が僅かに崩れた。
「お前は! 知っていたのか!?」
「何をォ?」
「とぼけるな!」
「なァ、福ちゃん。周り見てみ?」
 珍しく声を荒げた福富に、周囲が戸惑った目を向けていた。
「寿一?」
 心配げな新開の呼びかけに、はっとしたように福富が荒北の腕を離す。
「ドリンク休憩入りマース」
 ペダルを回してもいない状態でいけしゃあしゃあと宣言すると、荒北は福富の袖を引いた。
「……荒北」
「ベプシ売ってんの、あっちの駐車場の自販機だけなんだよネ。付き合って。お説教ならそこで聞くからさァ」
 返事を待たずに歩き出すと、クリートを付けたシューズの独特な足音がついてくる。
 戸惑った顔の部員達の目が届かないところまで来ても、コンクリートに金具の鳴る音以外は聞こえなかった。そのまま互いに何も言葉を交わさずに歩き、校門から少し入ったところにある来客用の駐車場に入って、自販機に向かう。
「水でいい?」
「要らん」
 聞かずにミネラルウォーターのボタンと、自分用に愛飲の炭酸飲料を買ってボトルを放る。
「で、何?」
 受け取めたボトルの蓋に手をかけず、透明なボトルの中で反射する四月の終りの陽光を親の仇のように睨みつけていた福富が、その目を荒北に向けた。
「知っていたのか?」
「だから何をォ?」
「東堂のことだ」
「知らネ」
 きっぱりと短く応じたが、素っ気なさすぎたのだろう、滅多に感情を波打たせない福富が激発した。
「あれだけ近くにいてか!」
「……それさァ、昨日も監督に言われたけどォ。じゃあ、お前らは近くいて、何か気付いてたァ?」
 どいつもこいつも、と嘆息した態度が気にくわなかったのか、胸倉を掴まれて引きずられ、炭酸が缶から零れて手を濡らす。
「あのさァ、福ちゃん……」
「ここしばらく、お前は東堂に親身になりすぎだった……! 知ってたんだな、横領の件を!」
 低く唸るように問われた言葉に、一瞬思考が止まる。
「……横領」
 想定外の言葉が出てきた、と嘆息して、手にしていたアルミ缶を一度コンクリートの上に置き、憤る福富の手から未開封のボトルを取り上げると蓋を捩じって、べたつく手を洗い流してから持ち替え、金色に脱色した頭の上で逆さまにした。
「頭冷やせヨ、福富寿一」
 半分になったボトルを持たせて、改めて炭酸の缶を拾い直す。
「福ちゃんはさァ、鉄仮面だけど、単に顔作るの下手なだけだよな。そういう意味では、東堂の方が大人だし、上手いワ。あいつ、どんだけグチャグチャになっても、そのことだけは絶対に漏らさなかったんだぜ?」
「…………どういう、意味だ?」
「だから、知らねェって言ってんのに、何で信じないかなァ?」
「じゃあどうして……!」
「何か抱えてんのは分かってたから、何回か踏み込んで、全部はねつけられたんだよ。新開だって拒否られて腐ってただろ。何か知らねーけど、放っとくのも寝覚め悪ィし、正直超カンジ悪くてムカつくから横にいただけ。見張ってりゃ動きにくいみたいだったしネ。でも、あの馬鹿、ボロ出さなかったなァ」
 横領とはまた、随分と想定外の問題を抱えていたものである。
「アー、会計の仕事洗い直してたのそれかよ……。分かりにく……」
 ぼやく荒北を、福富が呆然と見つめた。
「本当に、知らなかったのか?」
「って、最初っから言ってんだろ。アイツ何も言わねーし。姉ちゃんか家の関係でまだ何かあって、グルグルしてんのかと思ってたよ、あのシスコン……」
 その為に送迎すると言って強引に家の様子を見にいってみたのだが、見事に空振りだった上に、厄介事を増やしたような気がする。
「新開は、部内の人間関係一番気にしてたしなァ。福ちゃんも、結構声かけてたけど、何だと思ってたの?」
「三年との関係と、タイムの伸び悩みで、一時的に自転車から離れようとしているのかと……」
 東堂の突然の偽マネージャー就任をそう解釈して、善良にチームメイトを心配していたらしい。
「ま、フツー、高校生の悩みって、友達か恋愛か部活か家だよな……」
 部の問題ではあったわけだが、問題のレベルが違いすぎる。
「ここまで聞いちゃったから、もうぶっちゃけて聞くけど、誰が何してたの?」
「経理を担当していた、OBだ」
「あー、寄付金の着服とかそーゆー?」
 毎年全国優勝を常とする強豪の運動部だ。遠征費や合宿、設備の費用など、部員の家庭から集めるだけでは足らず、OBや地元の寄付、一部は企業のスポンサーもついて賄っている。生徒の手でやりくりできるようなものではないので、ボランティアのOBが経理を引き受けていると聞いていたが。
「寄付金の方は今調査中だそうだ。東堂が気付いたのは、備品の横領だ」
「備品」
 鸚鵡返しに呟くと、福富が苦々しく補足した。
「卒業生からの寄贈のバイクが足りないと」
 三月に卒業生が気前よくバイクを置いていったことをきっかけに、これまでの寄贈分を調べ、部内で保有している数の差異に気付いたらしい。
「横流ししてた?」
「パーツに分けて、ネットオークションに出ているのを確認したそうだ」
「アレか……!」
 今週の初め、不意打ちのようにして荒北が部室に入った時に、東堂がなだれさせた書類の中にあったプリントアウトだ。
 この二週間、ひたすら備品を整理してリストアップしていたのはそのためか、とようやく理解する。寄贈されて使われないまま埃を被っている高価な機材がもったいないと、初心者の受け入れを主張した理由も、その一端だったのだろう。
 突拍子もない行動の一つずつが、パズルのピースのように嵌っていく。
「っの馬鹿……!」
 どこまでも度し難い、と唸ると、ぱしゃりと水音が聞こえた。見れば、福富が手にした水のボトルを握り潰していた。
「福ちゃん?」
「……誰も、信用できなかったんだろうか?」
「ああ、福ちゃんはソコ怒ってたんだ? で、オレだけは相談されて知ってたかも、って思ってムカついたの?」
「どうして……!」
「頼ってくれなかったんだ、って? 福ちゃん、もし相談されてたらどうした?」
「どうって……、先生に、相談するしか……」
「教師に直接いっても一緒だな。友達に相談してもそいつに負担増やすだけで、何の意味もない。一人で証拠まとめて、顧問とコーチ、学校に報告、なるべく内々に納めて、部員には知らせない。誰も何も気づかない。これがアイツにとってのベストだったんだろ。人を巻き込まずにうまくやりたいって何回か言ってたなァ、うわ、ムカつく」
 昨夜、うまくいったのかと問えば、頑なな表情でうなずいた。
 そのままならば、一生涯口を噤んでいたに違いない。
「……親父に、東堂がどんな人間か聞かれた」
「福ちゃんの親父さん?」
 何故、急に父親が出てくるのだと思ったが、福富の父親がこの箱根学園自転車部の創始者だったと思い出す。プロ選手としても活躍していた彼は、当然自転車部OB会の重鎮だ。
 先程から伝聞系で語られる事件のあらましを、福富は父親から聞かされたのだろう。
 もしかすると、昨夜会議室に集まっていた中にいたのかもしれない。
「答えられなかった……!」
 告発者の為人を問うた父に、言うべき言葉が見つからなかったのだと、握りこんだペットボトルから更に水を溢れさせる福富を半眼で見やる。
「福ちゃんが今まで思ってた東堂って、どんなの?」
「……明るくて、前向きで、大口を叩くが、言っただけのことはやり遂げる男だ」
「言わなくてもやりやがるって、加えといた方がいいかもネ。で、どうしよもない馬鹿で馬鹿で馬鹿。好きなもんは馬鹿みたいに抱え込んで守ろうとすっから、好かれると面倒。福ちゃん愛されてるから大変だな」
「荒北?」
「なぁ、福ちゃん。アイツが、今回必死で避けようとしてたことって、福ちゃんと新開巻き込むことと、問題を大きくして部に影響が出ることだぜ?」
 うまくやりたいと繰り返していた。騒ぎにせず、注目されず、一人で責を負って片付けようとした。
「東堂、退部届も用意してたんだぜ?」
 破ったけど、と動揺した福富に言い添える。
「何で……一人で全部……!」
「馬鹿だからじゃね? それで周りがどう思うかって、あんまし気にしないんだよな、あのボケナス」
 それで、と荒北は問うた。
「どうする、福ちゃん? 東堂は人の気持ちも考えないで、超自分勝手に一人で全部好きにしたけど、フザケンナってぶん殴りに行く?」
 やるなら加勢する、と腕をまくり上げるが、福富は乗ってこなかった。
「東堂は、どうしてほしいと思う?」
「知らない振りしてやんのがいいんじゃナイ? 福ちゃんには一番知られたくなかったんだろーし」
 あっさりと父子の経路で事の次第が伝わってしまったわけだが、それが無ければ荒北もこの一件の詳細を知ることは適わなかっただろう。
 実にうまくやろうとしたものだ。
「……分かった、何も言わない」
 苦い物を噛みしめるような顔で宣言した福富が、荒北に目を転じた。
「荒北も……黙っていてくれるか?」
「それってオーダー?」
 茶化すように問うと、荒北の捻くれぶりと、己のオーダーだけは完遂することを熟知した福富から、オーダーだ、と返事が溜め息交じりに返ってきた。

 レースから戻ってきた一年生達の、一様に虚脱した顔を眺めて、そういえば、と思い出す。
「ぶっちぎるって言ってたナ」
 どこまでも有言実行の男である。
「全員チギッたの?」
「当然だ、一年坊主に負けるオレではない! 山神の二つ名は伊達ではないぞ!」
 傲然と応じる声はもう高く作った声ではなく、どうやら既に性別は明かしたようである。
 死屍累々と横たわる一年生達は、レースで体力を使い果たしたというよりも、偽マネジに気力を根こそぎ持って行かれたようだ。
「なんか、気が付いたら抜かれてて……」
「坂で出せる速さじゃないっすよ、何か重力おかしいんすよ!」
「音がねぇ、全然しないんです。スゴいキレイで簡単そうなのに全然追いつけなくて。マネジ、美人で優しいのに速いってすごいですね!」
 それぞれトラウマのようにぶつぶつと呟いている中に、一人のほほんとした者がいる。
「……葦木場、あの人、男だって、分かってるか?」
「ええええっ!?」
「遅えっ!」
 非常に鈍かった葦木場を一喝して、少し気力が戻ったのか、のろのろと起き上がった黒田がどんよりとした目を上級生に向けた。
「…………いくらなんでも、やっていいことと、いけないことってあるんじゃないっすか?」
 一年を代表しての問いに、上級生達は目を泳がせた。
「いや、俺らだって途中から辛かったつーか」
「マネジの性別が分かってる分、こっちのがキツかったんだぞ?」
「東堂も途中からキツかったのか、荒北が送り迎えするようになったくらいだし……」
「じゃあ止めましょうよ!」
 下級生の血を吐くような叫びに、たじたじになりながら、いや、でも東堂が、などともごもごと責任を転嫁する。
「大体、荒北さんっすよ!」
「ハァ?」
 何故、急に名指しで責め立てられ眉をひそめると、後輩が言いがかりをつけてきた。
「後半、めっちゃ彼氏面で俺ら牽制してたでしょーが! なんすか、お姫様だっことかオートバイ送迎とか彼ジャケとか! 今日だってレース開始前スッゲー周り牽制してましたよね!」
「何だソレ?」
「やってましたよね、フツーに!」
「してねーよ」
「いや、横で見てて楽しかったぜ?」
「新開さんがまた変なポジションいるから! どんな三角関係の修羅場かと!」
 面白がって状況を攪乱させていた節のある新開にも噛みつく黒田に、東堂がびしりと指を向けた。
「何を馬鹿なことを。もしオレが本当に女だったら、荒北のような男を恋人にするほど趣味は悪くないぞ!」
「…………何で俺ら、この人が女に見えてたんだろう……?」
 目が覚めたようで良かったが、心の傷は深そうである。
「まだオレに挑む気概のある者は本入部してかかってくるがいい! 負け犬はとっとと退部届を出して去れ!」
 高らかに宣言した東堂に、顔を上げて殺意を閃かせた一年はどうやら部に残留しそうである。それなりの数は残りそうなので、このろくでもない仮入部企画の後、今年の一年が一人もいなくなることはなさそうだ。
「ほら、一年。いつまでもへばってないで、片づけろ。今日はOBの先輩たちが集まってくださっていて、恒例のバーベキューの用意がある」
 肉と聞いて、それまで地面と仲良くなっていた一年生達が次々に起き出す。
 主将が号令を出して、ぞろぞろと部員達が移動を始めるのを見送って、それまで黙り込んでいた福富に目をやる。
「と、まァ、絶好調だな」
「…………凄いな」
 何事もなかったかのようだ、と呆然と呟く福富に、苦々しくうなずく。
 何も知らなければ、今回の件は引っかかりを感じながらも、何も気づかずそのまま忘れて済んでしまったのだろう。
「OBが集まってるって?」
「今回の件とは関係ない。仮入部最終日の一年生レースの日は、OBの有志が部員にバーベキューを振る舞うのが恒例だ」
「関係ないっつーか、そこ、狙ったんダロ」
 この件について話がしやすいようにしたのだろう、と指摘すると、愕然とした顔が向けられた。
「いや、ホント、無駄なくてイラっとすんな、あの野郎」
 この仮入部期間で終わる、とは言っていたが、実に見事にこの二週間で部内の事務を自由に采配して必要な証拠をまとめ、関係者たちの集まる日までに蹴りをつけ、諸々の不審な行動は女装企画という冗談で有耶無耶にしたものだ。
 実に腹立たしい。
「あいつの頭の中は、どうなってるんだ……?」
「サァね」
「何だ、待っててくれたのか?」
 自転車を押して戻ってきた東堂が、立ち尽くしていた二人に呑気な顔で笑いかけてくる。
「バーベキューって聞いてねーって話してた」
「ああ、お前は去年この時期いなかったからな。毎年恒例だぞ、歴代のOBが集まってくるんだ。フクの親父さんなんか、昨日の夜から学校に挨拶に来てたぞ。なあ、フク?」
「…………ああ」
 普段、あまり感情が表に出ない福富の揺らいだ声は不自然で、聞いた瞬間、はしゃいでいた東堂の顔から表情がごっそりと失せた。
 荒北の顔に転じられた鏡面のような瞳が、何かを勝手に写しとって一度瞼の向こうに隠された。
「何だ、知っているのか」
「サトリの化け物か、テメェは」
 場も空気も人の考えも感情も読むくせに、平然と人の心を踏みにじる相手に思わずぼやく。
 知らない振りをしようとした、こちらの気遣いが全て無駄である。
「生憎と、お前が何を考えてるかさっぱり分からんよ」
 冷ややかな目で荒北を睨みつけると、福富に向き直る。
「親父さんから聞いたのか?」
「……ああ」
「他に知っている者は?」
「いない」
「では、ここだけの話で終わらせてくれ。ただの不名誉な醜聞だ、部内に広めても何の意味もない」
 そこまで色のない平淡な声で告げて、ふと東堂は笑んだ。
「フクにそんな顔をさせたくないから黙ってたんだ。今回の件は一人不心得者がいただけで、フクが責任を感じるようなことは何もない。そもそも……」
「そっちじゃねーよ、馬鹿。お前、もうホント黙れ」
 見当違いのフォローを連ねる東堂の顔を、手で鷲掴むようにして黙らせる。
「何をす……!」
「ハイ、よくガンバリマシタ」
 告げた瞬間、見開かれた瞳からほたほたと涙が零れた。
「……がんばれって、絶対言わないんじゃなかったのか?」
「終わったら言っていいンだよ」
 勝手極まりない自己流のルールに、掌の下の東堂の顔がくしゃりと歪む。
「荒北の、そういうところが、嫌いだ」
「あっそ」
「何を考えているのかさっぱり分からない」
「お互い様だろ」
 荒北も、この片手で掴める小さな頭の中がどうなっているのか、さっぱり理解できない。
「で、お前、うまくやれたの?」
 押しつけた掌の下で、またじわりと熱が滲みる。ふるり、と小さく横に振られた首の動きを押さえ込むように、この二週間で痩せた身体を抱き込んだ。
「ザマァ見ろ、結局みんな巻き込んで、福ちゃんにもオレにもバレてんじゃねーか。一人じゃ何もできねーんだよバァカ」
「……次は、うまくやる」
「次なんかあってたまるか、このボケナス!」
 どこまでも度し難い、と抱き込んだ腕に力をこめて締め上げた。