電気冷蔵庫時代

電気冷蔵庫時代

【僕のヒーローアカデミア 炎ホー】

2023/5/4発行
文庫p64/4Cオンデマ/400円

ヒ暇世な平和時空の未来で家電をクラッシュしたり買い換えたりしつつ、なんかもだもだしてる炎ホ。

ヒーローが暇をちょっと持て余している平和な時空で、家電をうっかり壊したり新しく買ったりしながらもだもだしている短編集。
「冷蔵庫」「洗濯機&掃除機」「ドライヤー」の3編を収録。
洗濯機と掃除機の話はTwitterで昔上げたものの加筆修正版になります。

サンプル文

 

 学生時代、一人の教師が繰り返し言っていた言葉があった。
 電気冷蔵庫時代に、英雄は目立たない商品なのだと。
 元の言葉は、超常黎明期よりも前の時代の古い映画の中の言葉らしい。超常以前の一般兵器を用いた大戦が終わり、家電が各家庭に行き渡り始めた時代における、時代遅れの「英雄」とは、その学校で養成される「ヒーロー」とはまた別の存在だったのだろう。
 エンデヴァーというヒーロー名を選ぶことになる少年が養成学校にいた当時、「ヒーロー」は社会に今まさに求められる偶像で、白物家電などより余程求められる商品となりつつある時代だった。
 だからこそ、存在に大いに矛盾を孕んだ職業ヒーローなどというものを作り出す学校で、教師はその言葉を繰り返したのだろう。
 高性能の家電が、ヒーローなんてものより求められる時代がいつか来るように、と。
 その教師に傾倒していたわけでも、その理念に特に感銘を受けたわけでもなかったが、冷蔵庫を初めとした家電の広告を見る度に、ふとその言葉だけは思い出す。

  英雄というのはね、電気冷蔵庫時代にはめだたない商品なのよ。
     フランソワ・トリュフォー「二十歳の恋」

「エンデヴァーさん! 何があったんです!?」
 助けてほしい、といった趣旨のメッセージをプライベートの携帯に送ると、すぐに行きます、とだけ応答があって、本当にすぐに庭に降り立ったウイングヒーローは実にヒーローである。
 何があったのか、詳細を打っている最中に到着したので、最初から電話した方がよかったかもしれない。
「ホークス」
「はい!」
 呼んだ先が自宅であること、プライベートの電話にメッセージを送ったことからも、プロヒーローとしての要請ではないことは分かっているのだろうが、エンデヴァーを助けるのだ、という意気込みに溢れた顔に少し言葉を悩んで問いかける。
「……おまえ、アイスは好きか?」
「はい?」
 今度は回答に感嘆符ではなく疑問符がついた気がしたが、ひとまず了承と捉えてエンデヴァーはただの箱と化した冷蔵庫の冷凍室からバニラのアイスクリームのカップを一つ取り出して、超特急で飛んできた若造に突きつけた。