レディメイド

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【僕のヒーローアカデミア 炎ホー】
2021/09/19発行
文庫p64/4Cオンデマンド/300円

オーダーメイドカスタムメイドの続きの話。
子供デートをする炎ホー。なんか平和時空で、特に連合と戦線の統合も、春の決起も何も起きていないアースなんだな、くらいの認識でお願いします。
 
 

サンプル文

 

 この雪辱は必ず果たしてみせる、などという時代がかった台詞を向けられることは、エンデヴァーにとって、さほど珍しいことではない。
 ヒーローなどという因果な稼業に長年身を置いていれば、犯罪者達の身勝手な怨嗟を向けられることは日常茶飯事であったし、ランキングという明確な数字の出る序列がために、同業者から敵意を向けられることも少なくない。
 エンデヴァー自身も少し前までその順位に囚われて、長年二位に甘んじた屈辱と劣等感、諸々の負の感情に支配され、No.1に君臨していた英雄しか見えていなかったのだから、他人のことを言えた義理ではない。
 眼前に立ち塞がり続けたNo.1が力を失ってその座を退いて、そこに繰り上げられた途端、不意に晴れた視界を呆然と見渡して、己のこれまでの所業に気がついた。
 そんな、情けない男だ。
 これまで己がいた地位に就いた若手に同様の感情を向けられたところで、自業自得と言うしかないが、少し不可解なのは、現在のNo.2は全くそんなタイプの若者ではない、ということである。
 ウイングヒーロー、ホークス。
 速すぎる男などと呼ばれる通りに、最年少の記録をいくつも塗り替えて最速でランキングを駆け上ってきた青年で、年長者を馬鹿にしたような生意気な態度を取るが、順位自体には全く頓着していないようだった。
 もう少し下で責任を負わず気楽にやりたい、などと嘯く若造がトップの座などを狙って敵愾心を向けてくるとは思い難い。順位ごときがそんなに大事か、と煽る姿はまざまざと思い描けるが、順位を理由に屈辱に苛まれるような精神構造はしていないのだ。
 そんな彼が、猛禽の目でエンデヴァーを睨み上げ、この雪辱は必ず果たす、リベンジする、と言い放った。
「リベンジ……」
 さて、「リベンジ」という英単語は日本に持ち込まれた際に、少々意味が変質した言葉である。
 本来は己を貶めた相手に対する報復、復讐といった意味合いだが、日本ではスポーツなどにおける敗退からの再挑戦といった前向きな用法に変化している。
 日本語でリベンジ、と言った場合は比較的健全で明るい意味合いになる、というのがエンデヴァーの理解だが、己の半分の年齢の若造は年代特有の言語を囀ることがあり、今回も「リベンジ」の後に謎の単語が付属した。
 犯罪絡みで最近定着した言葉に「リベンジポルノ」なるものもあり、これは元交際相手の交際中に撮影した相手の裸等の性的な画像や動画を、別れた際に振られた仕返しとしてインターネット上に無断で公開する犯罪行為をいう。手軽に写真や動画が撮影でき、ネット上に公開できるようになった近年に発生した概念で、欧米の事例から言葉がそのまま輸入されたため、この「リベンジ」は元来の、報復の意味合いである。
 これと同様の新語ではないかと一通り調べてはみたが、該当しそうな言葉は見当たらなかった。
 新しい言葉ならば、新しい人間に聞くのが早い、と判断して、エンデヴァーは事務所の若手サイドキック達に声をかけた。
「リベンジデートとはどういう意味だ?」
 互いに顔を見合わせ首を捻ったところを見るに、若ければ通じる言葉というわけでもなさそうだ。
「流行語というわけではないのか?」
「聞いたことないですね。使う状況次第ですけど、一回目のデートを失敗して、やり直したいとかそういうニュアンスでは?」
 どんな状況で耳にした言葉か、と問い返され、ウイングヒーローの名を出した途端に、ストップ、と手を上げて制された。
「担当者を呼んできます」
 検挙率一位を誇るヒーロー事務所に所属し、様々な個性犯罪に対し誰がどのように対処すべきか、常に咄嗟の判断を迫られる日々を送る部下達が即座に連れてきたのが、事務所の古株サイドキックと広報、法務の担当者である。
 事務所一丸となって万全のリスク対策に臨む姿勢なのは理解したが、過剰反応な気がしないでもない。
「で、エンデヴァー。リベンジ、デート、ホークスと不穏な単語が並んだわけだが、何があったのか、最初から詳しく説明してくれないか?」
 キドウに平坦な声で問われ、リベンジ以外の言葉は不穏だろうか、と首を捻りながらエンデヴァーはつい昨日の出来事を思い起こした。

 大々的なチームアップを組んでの違法薬物の取引グループ検挙に成功した、その打ち上げだった。
 エンデヴァーは最後の捕物に参加したのみだったが、潜入捜査までしていた若手ヒーロー達はかなりの長丁場だったようで、彼らに対する慰労の宴会である。これまであまりそういった集まりに参加してこなかったエンデヴァーだが、ここ最近は少し改めることにしていた。
 だからといって、積極的に他の若手ヒーロー達と交流するわけでもなく、貸切の店内の片隅で顔見知りのベテランとぽつぽつと近況を話し合いながら、周囲の盛り上がりようを眺めていたのだが、観察していたはずが、次第にちらちらと目を向けられるようになって眉をひそめた。
 元来の無愛想に加えて、最近加わった左半面の大きな傷のため、少しの表情の変化で人相が凶悪になるエンデヴァーに、慌てたように視線が逸らされる。
「ほら、ホークスがデマ流すから!」
「人のせいにせんでくださいよ。猛獣ジロジロ見たら唸られるのは当たり前でしょ。あと、俺はデマなんか言ってないしー」
 誰が猛獣だ、とはっきりと顔をしかめて隣のテーブルを睨みやると、No.1の眼光を避けて人垣が割れ、逃げなかった若手の背中だけが視線の先に残った。
 背に畳まれた大きく鮮やかな紅色の翼がまず目を惹く、華やかな容姿の青年だ。有翼の個性は天使のような、と称するのが一般的なのだろうが、表情と態度が不遜にすぎて、天使らしさは微塵もない。
 小生意気によく囀る鳥、というのがエンデヴァーの所感である。
 見目の良さで年若い女子を中心に騒がれている印象が強いが、実力も折り紙付きだ。現場での対応力に優れているだけでなく、情報収集にも優れ、今回の捜査でも多大な貢献をしたと聞いている。
 非常に有能な分、不遜な態度の若造だが、鼻持ちならないほどではない、という絶妙なポジションに位置しているようで、この慰労会が始まってからは、若手のグループに交じってへらへらしているのを視界の端に捉えていたが、少し雰囲気がおかしい。
 酒の席で何かトラブルでもあったか、と思うが、深刻な様子はない。
 ただ、いつもならふてぶてしく見返してくる若造が頑なに振り返ろうとせず、周囲が奇妙な緊張感を持って、ホークスとこちらの出方を見守っているような空気があった。
 これは一体どういう状況だ、と目を眇めたエンデヴァーの視界の下端に、白いものが映り込んだ。
 大柄な体躯のヒーロー達に埋没してしまう、娘と同じくらいの身長にプラスされる、細長い獣の耳が揺れて主張することでようやく視界に入り込む小柄さだが、視線を下げれば非常に存在感のあるラビットヒーローがにんまりと笑っていた。
「なあ、エンデヴァー。ホークスが言ってんだけど、パパ活が趣味って本当か?」
「ミルコさん、ものすごい曲解からの中傷、本当にやめてくれません!?」
 浴びせられた言葉を咀嚼しようと黙り込んだエンデヴァーが回答する前に、速すぎる男がものすごい勢いで振り返って喚いた。
「……ぱぱかつ」
 一昔前の援助交際と同義の言葉だ、という知識はある。
 男性側が女性に金銭を支払って、デートや食事の同席がサービスとして提供される。ビジネスライクな愛人関係、とも言い換えられるような概念である。
 性行為まで至れば売春にも繋がるため、犯罪を取り締まるヒーローとして最低限の知識はあるが、基本的には成人した両者の合意の上の行為であるため、余程トラブルがこじれて個性犯罪にでもならない限り、業務上関わることは滅多にない。
 もちろん、仕事以外で関わったこともない。
「……そういう趣味はないが?」
 酒の席としても、かなり侮辱的なことを言われたことに遅まきながら気づくが、エンデヴァーよりも速く、ホークスが気色ばんでいたので、怒るタイミングを逃した。
「だってホークスが」
「言ってないんすけど!?」
 逆上している様が珍しい。
 おそらく、ムキになるのを面白がられ、ミルコをはじめとした周囲にからかわれているのだろう。
 そのダシに自分が使われたのは理解したが、何の話なのかさっぱり状況が掴めない。
「おまえは何て言ったんだ?」
「……エンデヴァーさんは、若手を連れ歩いて飲み食いさせるのが趣味」
 なるほど、ゴシップ誌のようなねじ曲げ方をすれば、ミルコの口にした「パパ活」になりそうな発言である。
「特にそういう趣味もない」
 ミルコに続いて、ホークスに対してもきっぱりと否定しておく。
 曲解は非常に迷惑だが、それ以前にホークスのホラが広がっても困る。
「えっ?」
「ほら、デマじゃねーか」
「エンデヴァーが余所のヒーロー連れて飲みに行くとか、誰も聞いたことねーよ」
「今日ここにいることがレアなんだぞ?」
 四方八方から小突かれているホークスを見るに、ホークス一人がその主張をし、周りのヒーロー達が否定していたらしい。
 ホークスが何故そんな主張をしているのか謎だが、周囲が正しい。
 確かにエンデヴァーの世代には、若手と酒を通して交流するのを趣味としている者もそれなりにいるが、これまでコミュニケーションというものに重きを置いていなかったエンデヴァーは、己の部下達とすら酒を飲む機会をそれほど設けていない。余所の事務所のヒーローと飲みに行くなど、皆無である。
「どこから出てきたんだ、その怪情報は?」
 意味不明のデマを流した上にその不満げな顔はなんだ、と生意気な若造の顔を握り込む。片手で覆えるサイズの上に、子供じみた表情と弾力のある頬の柔らかさに、本当に成人した男か疑問を覚えつつ、この小僧の戯言を真に受けないように、と勧告する。
「つまり、エンデヴァーは若い子誘ってブランドもの買ってやったり、高級レストラン連れて行ったり、ホテルに連れ込んだりしないのか?」
 つまり、などと要約しなくても、するわけがないだろうと苦い顔を向けると、ミルコが首を捻った。
「じゃあ、これ、何だ?」
 突きつけられたスマートフォンの液晶を、少しのけぞりながら眺めやる。
 画面の半分を占めた鮮やかな赤い翼で、写っている人物は明らかだった。
 プロの手によるものではない、視線もレンズを向いていない写真だ。街を歩けばそこかしこでスマートフォンのカメラを向けられるホークスを、ファンが撮影した一枚だろう。
 着ているものの色味は普段からお馴染みのヒーローコスチュームに似ていたが、珍しくスーツ姿だ。グレンチェックの少しクラシカルなスタイルには覚えがあった。
「これか」
 少し前に、己の個性でホークスの私服を二着も焦がしてしまい、詫びとして誂えたものである。老舗のテーラーによるもので、ミルコの言う「ブランド」ものではない。
 そう指摘すると、ラビットヒーローはなんとも言えない表情になって、画像を拡大して指差した。
「このチラ見えしてる時計と、カフスは?」
「……俺のお古だが」
 そういえばスーツをろくに持っていないという若造は小物の持ち合わせもないだろうと、手持ちのものを押し付けたのだった。こちらはブランドものではあるが、買い与えたわけではない。
「……で、そうやって上から下までコーディネートして、飯とホテル行った?」
「ホテルのバーだ」
「要約したらパパ活じゃないか?」
 男女間の関係を指すもの、という思い込みがあったが、性別を取り払って振り返ってみると、エンデヴァーがしたのは二十代前半の年若い青年に高級な服とアクセサリー類を贈り、食事と酒に連れ回した、という行為になる。
「なるほど、こういう心理か」
 知識としてしか持っていなかった概念を、我が身をもって理解しかけたところで、ばさり、と剣呑な羽音と共に視界が暗くなった。
「なわけないでしょうが……! 何、丸め込まれて納得しそうになってんすか!」
 大型の翼が広がったことで照明を遮って影を落としたのだ、と暗くなった理由を知る。威嚇行動だろうか、と鷹の名を持つヒーローを見下ろしていると、ぎらりとした目で睨まれた。
「いいですか? あれは、エンデヴァーさんが、普段、サイドキック達にやってる、コスチュームの新調金補助とか! 昼飯奢るとか! 事務所内で不要なノベルティ配るとか! そういうのと同じです!」
 同じだろうか、と首を傾げると、ミルコが肩をすくめてみせた。
「さっきから言い張ってんだよ。エンデヴァーは若手の指導の一環で、服とか物やったり、飯に連れていってマナー仕込むんだって。みんなにやってるって」
「部下の装備を整えるのと、事務所内の備品整理を兼ねた配布、仕事中の食事の負担は業務上のことで、一緒にされても困るが」
 今度は急に視界が明るくなったかと思えば、広げられていた剛翼がぱたぱたと小さく畳まれていた。
 己にはない器官なので、翼の動きがどういう感情表現なのか、今ひとつ理解できない。エンデヴァーの場合は炎の出し方でその日の機嫌を部下達に把握されたりしているので、慣れの問題だろう。
 付き合いは浅いが、この若造が口元を隠して感情を隠そうとする癖があるのは既に認識している。
 少し動揺している、と見て取って、こちらは笑いをこらえるように両耳を震わせ、大変楽しんでいるというのが明白に分かるラビットヒーローに目を向ける。
「で、一緒にされちゃ困るなら、こいつにしたことって何なんだ?」
 詫びと教育的指導とその他諸々である。
 彼の私服を駄目にした詫びとして、服を賠償し食事を奢る、というのが発端だったが、話の流れでスーツを誂え、それに合わせたテーブルマナー必須の食事と、酒の飲み方をこの年若い青年に教えるべきだと思って実行した。
 後から事務所の古株と家族に、若いとは言え自身の力で社会的地位を得て自立している成人男性に対し、その発想自体が傲慢である、と叱られた。そのまま口にはしない方がいいだろう、と説明する言葉を悩んで、ウイングヒーローより少し年嵩のミルコに通じそうな言葉を選ぶ。
「デート?」
「そうか、じゃあパパ活ってことでいいな?」
「だから! エンデヴァーさんは! どういう意味で、その言葉使ってるんすかねえ!?」
 爆笑した兎と、激昂した鷹の、二羽それぞれの反応に、やはり若者の用語は今ひとつ理解できない、と困惑する。
「二人で日時を示し合わせて出かけること、目的は買い物、食事、飲酒などのことが多い、という意味合いだが」
 エンデヴァーの世代では、交際している男女が、という前提があるものだったが、最近では交際だけでなく交友も含めて、同性間でも気軽に使うものらしい、と認識し直したところだ。
「合ってる」
 深々とミルコがうなずいたので、やはり間違ってはいないようだ。
 そもそも、最初にデートなどと言い出したのはホークスの方である。
 基本的にはその言葉に引きずられてレストランやバーを手配したところもあるので、不満があるのならホークスが考えていた「デート」とやらの定義を明確にしてほしい。
「俺が言ったのは、その場のノリの軽口で! ガチのデートコースセッティングしてくれなんて、一言もお願いしてません!」
「……そうか」
「ちょっとホークスゥ、エンデヴァー落ち込んじゃったじゃん。謝りなよー」
「ミルコさん、その小学生女子ノリやめてください。あと、さっきからめちゃくちゃ酔ってますよね?」
 エンデヴァーさんも、と睨まれたが、基本的にエンデヴァーはこういった宴席では酒を飲まないようにしている。アルコールが入っていても、体内に入れる前に個性を使って飛ばしている。
 酔っているわけではないのだが、ホークスは酒の上での戯言として済ませたいようだ。
「エンデヴァーはデートのつもりだったのにな」
「ミルコさん!」
 うなずいてはいけなかったらしい、と、首の動きを止めるが、少し遅かったようで、じろり、と鷹の眼に睥睨される。
「……ホークス」
「はい」
「今、何について怒っているか、聞いてもいいか?」
 ミルコを筆頭に、周りのヒーロー達にからかわれて苛立っている上に、自分が不用意な発言をして逆撫でしたらしい、とは理解している。
 ただ、焦点となっていることが何なのか、根本的な部分が分からない。
 デート、という言葉がセンシティブな問題であるようだ、とは察している。
 エンデヴァーはこういった場面の対応が壊滅的に下手で、毎回必ず対処を誤って相手を怒らせる。実の子供達との会話は大概失敗している。
 もはや、何を言っても気持ちを逆撫ですることになる息子達と違って、ホークスは比較的エンデヴァーに対して好意的だ。
 他人だからこその距離感と、生意気ながらも同業の先達として立ててくれているところもある。真面目に問えば、答えてくれるのでは、と思った通り、少し困ったように眉を下げた青年は少し考えてから口を開いた。
「ぶっちゃけて言うと、見た目と態度のチャラさでプレイボーイ扱いされてるけど、別に遊んでないし割と真面目君でお子ちゃまなホークスが、エンデヴァーの天然ガチめの大人のデートコースにタジタジになったのがメチャクチャ悔しいやつ。別に普通だしー? みたいな顔しようとして、どう考えてもそのデート設定自体がおかしいだろ、ってツッコミに自爆しまくってドツボにはまってる」
 速すぎる男が珍しく逡巡した隙に、ミルコが横から長台詞を被せてきたが、酔っぱらいの支離滅裂な言動は全く理解できなかった。困惑しながら見下ろしたラビットヒーローの顔に、赤い羽が次々と飛来してきて張りついた。
「ホークス、飲酒個性使用」
 酔ってちょっと浮かび上がるくらいなら大目に見るが、人を拘束、加害するような真似は職業上見過ごすわけにはいかない。
 相手も酔っている上に、常時発動されているに等しい兎の個性で聞き耳を立ててその場の出来事を把握し、知り得たことを面白おかしく吹聴していたとしても、である。
 ホークスも複合個性で同じような能力を持っているので、個性の種族は異なるが通じるところはあるのかもしれない。
 仲が良いのか悪いのか、エンデヴァーの勧告に従って、個性ではなく腕力で押さえ込みにいったホークスと、応戦するミルコの間に入って両者を摘みあげて制する。
 先日、酒量を確認したので、それなりに酒に強いホークスはまだ大して酔っていないはずだ。ミルコは明日以降、酒が抜けてから叱ればいいと、ひとまずあまり冷静でないホークスをたしなめる。
「挑発に乗るんじゃない。そうやって反応するから、子供扱いされるんだ。大体、大人の場に物慣れてないのは事実だろう」
 十八歳のデビューと同時に注目され、最速でトップヒーローに駆け上がってきた若者だ。ヒーローという職業上、未成年の間は飲酒は厳禁、二十歳を過ぎた頃には人気が出過ぎて若者特有の馬鹿げた飲み方などもできなかっただろう。今も酔ったミルコに絡まれて、うまく受け流せていないところを見ても、基本的に飲みの場に慣れていない。
 エンデヴァーに比べると遙かに小規模な事務所で、個人の活動のみであの事件解決数を叩き出しているのだ。更に芸能活動をほぼしないエンデヴァーと違って、様々な企業の広告塔も務め、メディアの取材にも応じている。相当なワーカホリックである。
 ミルコが言う通り、見た目や言動から決めつけられているより、この若者の中身はかなり品行方正だ。
 そのこと自体は好ましいが、経験値が足りていないのは事実である。
 もう少し遊んだ方がいいのでは、という提案をしようとして、片腕に納めた鷹が深く俯いていることに気が付いた。
「ホークス?」
「……俺、こんなに侮辱されたの、初めてな気がします」
 翼を広げて、エンデヴァーの太い腕を退けたホークスが、ばさりと一つ羽ばたいて、テーブルの上の軽いものを吹き散らした。
「エンデヴァーさん、分かりました」
 地の底を這う声音が怒気を纏わせているのに、ホークスはにこやかに笑ってみせた。
「リベンジデート、しましょう」
「リベンジデート」
 意味が理解できず、鸚鵡返しに呟いたエンデヴァーに、有無を言わせない笑顔が迫った。ぎらぎらとした金色の双眸が鮮やかで、つい目を奪われる。
「俺が全部セッティングするんで、今度は大人のデートじゃなくて、お子さまデートに付き合ってくださいよ」
 どうやら、とても怒らせたようだ、とだけは理解した。