一年間荒東(2016ver.) - 7/12

◆7月

 東堂尽八という男が、何を考えているのか、荒北には今一つ理解ができないが、妙に季節感というものにこだわることは、さすがに理解した。
 今朝カレンダーを見た瞬間やるだろうとは思っていたが、案の定七夕の笹を部室に持ち込んできた東堂に、予想通りかと嘆息する。
 立派な笹はまたどこか近所で調達してきたのだろうし、既に飾りつけられた色とりどりの折り紙飾りは、女子が大半を手伝ってくれたのだと宣う。
 理解はできないが、いい加減慣れた。
 綺麗に切りそろえた短冊も用意して、上級生権限を思う存分振りかざして一年に記入を強制し、同学年も面倒なのか逆らわず、三年も抵抗はないのか渡されるがまま願い事を書いて笹に吊るしている。
 こうして大概思い通りになるものだから、ますます図に乗るのだと、押し付けられた短冊を手に顔をしかめると、不細工な顔をするなと余計なことを言いながら東堂が手元を覗き込んでくる。
「何も書いてないじゃないか」
「別に書くことねェよ」
 他の部員達は開催まであと一か月を切ったインターハイの優勝を祈願しているようだが、そういった行動に足並みを揃える性格ではない。人に合わせないという意味では大差ない東堂が何を書いたのかと手元に目をやれば、「巻ちゃん」の一言が読み取れた。
 春先にライバル認定した他校のクライマーの勝負に対する、非常に個人的な願い事のようだ。
「願い事の一つもないとは、駄目な奴だな」
 噛みついてやろうと息を吸い込むが、怒声を発する前に東堂が携帯を引っ張り出した。着信か、と一瞬黙ってやるが、気遣うだけ無駄で自分から発信したのだとすぐに知れた。
「もしもし、巻ちゃん、願い事はなんだ?」
 誰も聞いていないのに延々とライバルについて語る東堂のせいで、千葉のクライマーが対人能力が低く口下手なことは知っていたが、前置きも説明もすっとばして言いたいことを話し始める東堂にも問題がある。
「なんだかそっちも賑やかだな! え? 今日!? 聞いてないぞ、誕生日だなんて!」
 言ってくれていたら、日付が変わった瞬間に電話したのに、と叫ぶ東堂に、だから黙っていたのだろう、と横で聞いているだけで会話の内容が手に取るように分かるやり取りに独りごちると、うるさいと睨まれた。
 自分の姦しさを棚に上げた態度にかちんときて、東堂の手からペンを毟り取って短冊に願い事を書きこむ。
 『東堂が静かになりますように』と書き殴った短冊を見て、東堂が細い眉を跳ね上げた。
「ちなみにオレは来月の八日だ! 八並びだな!」
 なおも電話を続けながら、荒北からペンを奪い返した東堂が新しい短冊に、憤然と何やら書き込んだ。
 『荒北の性格と顔面が少しだけでもマシになりますように』と書かれた紙片を叩きつけられ、なおもライバルとの通話をやめない東堂に苛立つ。ペンを奪い合いながら、途中から願い事の体裁さえかなぐり捨て、ただの悪口を書き連ねた短冊の応酬になる。
「……二人は、何をしているんだ?」
「いやぁ、なんか尽八が我慢切れて電話切ったら靖友の勝ち、靖友が我慢できずに口か手が出したら尽八の勝ちみたい?」
「遊んでるのか」
「「違ぇよ!!」」
 福富と新開のやりとりに、東堂が通話を切って、荒北が机を殴りつけて、同時に振り返って怒鳴りつけると、新開がオレの勝ち、と飄々と拳を掲げた。