◆3月
頭の中に花でも咲いているのではないかと常々思っているチームメイトが、花を担いで帰ってきた。
黄色いぽわぽわとした花を付けた木の枝を大量に抱えた東堂を、呆れて見やる。
「ナニソレ?」
「ミモザ」
花の名前を聞いたわけではない、と顔をしかめると、不細工だな、と余計な感想を告げてから、ホワイトデーのお返しだ、と言い足す。こんな失礼極まりない男がどうしてモテるのか、荒北にはいまだに理解できない。
夕食までまだ間がある食堂のテーブルに新聞紙を広げた上に枝を置き、キャンディの山を並べたところを見るに、ここで明日のホワイトデーに向けてお返しのプレゼントのラッピングを始めるつもりらしい。
「……いくつ作ンの?」
「とりあえず五十、予備をある程度用意かな」
「この花はどーしたの?」
「近くの家の庭で見事だったから、褒めたらくれた」
人懐こい愛想の良さを全開に、ホワイトデーのお返しに添える花をちゃっかり手に入れてきたらしい。荒北には絶対に真似できないが、したいとも思わない。ついでにする必要もない。
鋏を使って花のついた枝を小さく切ってまとめ、切り口に湿らせた綿を巻いた上にアルミホイルを被せ、棒付きキャンディとまとめて透明のラップで包むと、小さな花束ができていく。
無駄に器用だと呆れながら、いかにも女子が喜びそうなお返しを眇め見る。
「こーいうのって、花言葉とかあるんじゃねェの?」
「意味はたくさんあるからな、受け取る側が好きに解釈すればいいんだ」
「テキトーだな、おい」
妙に慣れた手つきで飴と黄色い花のブーケを手早く作っていた東堂が、一瞬手を止めた。
「ミモザの花言葉で検索してみろ」
説明が面倒だ、とどこまでも上からな台詞に噛みつかなかったのは、東堂の作業を見守る程度に暇だったからだ。
携帯を引っ張り出して、検索をかければ、すぐに答えは出てきた。
友情、真実の愛、秘やかな愛、豊かな感受性、堅実、エレガンス、神秘。ずらずらと並んだ花言葉に、あまり一貫性はなかった。花言葉というものは、もう少しきちんと花ごとに意味があるものかと思っていたが、そういうものでもないらしい。
「どう意味を取られてもそう困るものではないし、この時期の花で春らしい可愛い花だ、便利だぞ、ミモザ」
「お前のファン連中に伝えてやろうか、その台詞」
「構わんよ。どうせ、あの子達もオレに本気なわけじゃない」
同じような花束をいくつも作りながら、冷淡な台詞を吐く。
時々、この脳内に花が咲いたような男は、同じ場所に溶けない氷でも置いているような一面を見せる。
鼻白んだ荒北の反応を察したのか、東堂が花畑の方を前面に押し出してきて、へにゃりと笑い、束ねていない花と飴を差し出してきた。
「あげるから、黙っていい子にしてろ」
「いらねェよ」
「お返しする相手がいるなら、特別にアレンジ作ってやるぞ」
花畑の方が前面でも、どこまでも偉そうな上から目線である。
「いねェよ」
先月チョコレートなど誰にももらっていない。
どこまでも上からな東堂が、分け与えてやる、と食べきれないチョコレートの一部をしつこく押し付けてきたくらいのものである。
「……お前、本当に駄目な奴だな」
どの意味で受け取ればいいのか分からない、花言葉満載の花を脳内に咲かせたような男が、はっきりと馬鹿にしたと分かる口調で嘆息した。
