◆12月
こたつを自室に置いている前主将に福富と共に呼び出され、引継なのか遊び相手を探していただけなのかよく分からない、カードゲームをしながらのミーティングは、途中から完全にただのゲームと化した。
運良く最初に上がった東堂は、この勝負がついたら福富に声をかけて部屋を辞そうと考えながら勝敗を見守っていたが、いつの間にかこたつの魔力に負けた。
「あ、しまった、東堂寝落ちた」
「クソ、もう起きねーな。荒北と新開呼べ」
色々と誤解がある気がするのだが、別に東堂は一度寝たら何が何でも起きないわけではない。たまに完全に前後不覚になっていることもあるが、大抵は今のように浅い眠りで周りの状況も把握している。
しかし、ここで目を開けると消灯時間までゲームに付き合わされそうだと判断して、そのまま狸寝入りを決め込む。
「二年新開入りまーす」
「ス」
元主将の部屋に緩く挨拶して入ってきたのは新開で、続いた雑な挨拶が荒北だ。
「新開、代わりに入れ。荒北、東堂持ってけ」
上級生命令に口笛で応じる新開があまり咎められないのは、隣の荒北が不満を喚き散らすからだ。
「ンでオレが!?」
「がんばれ運び屋」
「冗談じゃねェんすけど!」
「じゃあ、オレが尽八運ぶから、靖友が代わりにゲーム入ってく?」
ぐっと詰まったのは、どちらも嫌だという正直な反応である。
「あ、尽八めちゃくちゃホカホカしてる」
こたつから引っこ抜かれて、寒がりなスプリンターに抱きこまれる。
「オメーはトランプやってろ! ってか、マジであったけェな、コイツ!」
乱暴に新開を蹴りはがして東堂を引っ張り上げた荒北は、すぐ風邪をひくくせに薄着をしたがるために体温が低い。こたつに潜っていたため、少し暑いくらいだった東堂には、その体温が丁度良く、そのまま尖った肩に懐く。
駄目だ起きない、と耳元で嘆息が聞こえて、足が宙に浮いた。
「重っ」
毒吐いた言葉に、部屋を出たら起きようという計画を変更して、荒北の筋トレに協力してやることにする。
「寒っ」
人口密度が高く、暖房もフル活用されていた部屋から廊下に出た瞬間、気温が急降下した。暖を求めたか、抱える荒北の腕に力がこもって、ぶわりと熱が上がった。
「お、荒北。ビューティどうかしたか?」
「起きねェんすよ! つーか、ビューティとか呼んでコイツをチョーシ乗らせねェでほしいんすけどォ!」
通りすがりの上級生から声をかけられ、ギリギリの敬語で当たり散らす辺りが荒北だ。頑張れ、と鷹揚に見守られたというのに、どいつもこいつも、と文句を言いながら三つ向こうの東堂の部屋に到着する。
部屋が近くなかったら、先輩の部屋から出た瞬間に放り出していただろう。乱暴にドアを開閉したが、床に落とさずベッドに転がしたのが最後の優しさだろうか。
寮の年季の入った床を踏み鳴らして立ち去りかけた足音が、何故か途中でぴたりと止まって、しばらくの沈黙の後にまた戻ってきた。
「起きろよ、クソ寒ィんだから!」
いつでも怒っている男だ、と夢うつつに考えていると、引き起こされてカチューシャを毟りとられ、布団の下に押し込まれた。
「子供の体温かよ!」
まだ、先程のこたつの熱が残っていることにまで文句をつける男が、不意に黙った。
「熱、あるわけじゃねーよな?」
前髪をかきあげて指が額に添えられるが、その冷たい手では差異が今一つ分からなかったのか、最近巷では野獣呼ばわりされている元野良は、実に野性的な手段に出た。
「……やっぱ熱あるわ、コイツ」
押し当てていた額を離して、世話が焼けるなどと嘆息した荒北に、布団を口元まで引き上げてしっかりと被せられる。
「……馬鹿だし、明日の朝には直ってンだろ」
失礼な言い種を残して、先の三分の一程の音量でベッドから離れ、ドアが開閉される。
「……誰のせいだ」
ドアが閉まったのを確認してから、東堂は布団に頭まで潜り込んで熱をもった顔を隠した。
