まちがいさがし
【僕のヒーローアカデミア 炎ホー】
2024/10/27発行
文庫p200/4C表紙+4Cカバー/1,000円/R-18
そんな謎の文言と共に、ホークスが巻き込まれたのは、どこか何かが違う世界、否、人生だった。
エンデヴァーとの関係がそれぞれ違う世界に翻弄されるホークス。
もし、ヒーローでなかったら、もし違う個性だったら、そんな、七つのIFを巡る物語。
サンプル文
ななつのまちがいを すべてみつけてね!
丸っこいフォントがでかでかと主張するひらがなの文意を読み取って、ホークスは眉を顰めた。
定型サイズの白い紙に書かれているのだと思ったが、壁に書かれているような、空間そのものに刻まれているような、なんとも曖昧な感覚だ。
夢を見ている、とまず判断したが、どうにも怪しい。
ただの明晰夢なのか、何者かの個性によって精神干渉を受けたり、奇妙な空間に取り込まれたのではないか、判断しづらいのが個性社会の面倒なところだ。
夢ならば起きてしまえばいいのだが、頬を軽く叩いてみてもその感触もおぼつかず、覚醒の気配はない。
次の対処として、この状況が個性由来であった場合だ。
職業ヒーローとして、犯罪者の個性攻撃を食らうこともあれば、偏執的なファンに個性をかけられることもある。救助対象の市民がパニックを起こし、個性の暴発に巻き込まれることもしばしばだ。ひどいパターンだとプロヒーロー間で連携がうまくいかず、うっかり個性攻撃を浴びせられることもある。
直近でそういった誰かの個性に巻き込まれた心当たりを探るが、記憶自体が非常に曖昧模糊としていて、明確な記憶をまるで辿れない。
これはまずい、と危機感を覚えながら周囲の気配を探っても、高性能のサーチ能力を有した剛翼が何の情報も拾ってこない。空間の広さも、他者の気配もまるで分からず、どう分からないのかも判じられない。
強制的に幻覚を見せられているか、もっと悪い場合は生身で誰かの領域に取り込まれた可能性が高い。
こういった場合の対処には二種類あって、外部の救援を待つか、自身で打破するかだ。
前者は消極的なようだが、下手を打てば夢遊状態で歩き回ったり暴れ出すこともあり、己にも周囲にも被害を出しかねない。状況にもよるが、幻覚や催眠をかけられた際の鉄則は不用意に動かず、味方のフォローを待つことだ。闇雲に周囲を攻撃して被害を増やしては目も当てられない。
問題は、自身で打破する必要がある場合だ。
幻覚でも、個性保有者の領域内に取り込まれる場合でも、そこまで強力な個性は少なく、軽い衝撃や他者から声をかけられるだけで解けることが多いのだが、稀に解除に条件付けがされているケースがある。
プロヒーロー間で「出られない部屋」と通称される、酒席での定番の話題だ。酒の肴の扱いだが、笑い話から猥談、ホラーまで幅広い。
解放条件が他愛ない達成条件ならばよいのだが、同じく閉じ込められた相手と殺し合って最後に残った一人だけが出られるなどといった怪談じみた噂もまことしやかに囁かれる。
そして、猥談にもなるのは、条件が性的な内容になることがあるからだという。
どちらかというとホークスは、たまに目にすることのあるファンアートの漫画や小説で、創作物のネタとして認識しているが、性犯罪者や過激なファンが現実の事件として引き起こすことがあるのは知っている。
今回のケースはどのパターンだろう、と目の前の解除条件と思われる一文を睨む。
丸っこい文字とひらがなの羅列で、妙に子供じみた印象がある。特に漢字変換で意味が変わるような仕込みもなさそうで、そのまま間違いを七つ見つければ達成されるのだろう。
イメージは、二つの絵を見比べて差異を見つける子供向けの絵解きパズルだが、この何もない空間で何の間違いを見つけ出せというのだろうか。
「エロいやつじゃないといいなあ」
苦笑混じりにぼやくと、黒々と存在を主張していた文字がぐにゃりと歪んだ。
同時に、あやふやだった足元の感覚が消失する。
慌てず己の個性である両翼を広げるが、全く制御が効かない。ただ、落下するというのとも違って、ただずぶずぶと身が沈んでいくような、奇妙な緩慢さで落ちていく身体と共に、ホークスの意識も沈んでいった。
